会議が終わり、ロード・エルメロイⅡ世とアルビノの男が、時計塔の石造りの廊下を並んで歩いていた。
「ウェイバー。 とんでもないことになってしまったねぇ。」
声をかけたのは、色素の薄い肌に銀白の髪を揺らす男――メルヴィン・ウェインズ。
相変わらずのへらへらとした卑屈な笑みを浮かべながら、気のない調子で言葉を投げる。
なお、彼が呼称する"ウェイバー"とは、ロード・エルメロイⅡ世の本名、ウェイバー・ベルベットからそう呼んでいる。
「ああ。 だが、私はこの新制度だけは認めん。 ロード・バリュエレータ、何を考えてるのか…。」
ロード・エルメロイⅡ世は歩を緩めずに応じると、眉間に深く皺を刻んだ。
「うんうん、同感だよ。 私もできれば静かに調律の仕事だけしていたいしね。 体もあんまり丈夫じゃないし、こんな騒動には関わりたくないのが本音さ。」
メルヴィンが不敵にニヤニヤ笑いだし、ロード・エルメロイⅡ世に賛同する。
「…ならばメルヴィン、お前にも手伝ってもらえないか。"新制度"の運用中に、その問題点を洗い出して記録するつもりだ。」
エルメロイⅡ世は低い声で続ける。
聖杯戦争の最中、その"危うさ"を立証し、制度そのものを廃止に追い込む意図があるようだった。
「ああ、それはお断りするよ。 どんな面倒に巻き込まれるか分からないからね。」
メルヴィンは手をひらひらと振って、無責任な笑みのままに拒否する。
「お前なぁ……」
エルメロイⅡ世は額に手を当て、思わず嘆息した。
「まぁでも、何か分かり次第、連絡はするよ。 君の無茶に付き合うのも、"親友(自称)"としての義務みたいなものだしね。 …どうせまた、全部ひとりで抱え込んで、体を壊すだろうし。」
そう言うと、メルヴィンは気の抜けたような表情で、肩を竦めてみせる。
「……まぁ、期待はせんがな。」
ロード・エルメロイⅡ世はぼやきつつ、通路の先で待っていた、モノクロの服にフードを深くかぶった付き人の内弟子の女性と合流する。
一方その頃──
石造りの回廊の角で、黒髪を揺らす勝ち気な女性のもとへ、橙がかったブロンドの巻き髪を持つ、貴族然とした女性が優雅に歩み寄る。
「ご機嫌よう、ミス・遠坂。 貴女も"新制度"と言うものに難色を示している様ですわね。」
そう語りかけたのは、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト。
上品な笑みを湛えながらも、その瞳には微かな苛立ちがにじんでいた。
「機嫌なんて良い訳ないでしょ! わたしだって、ロード・エルメロイⅡ世と同じ意見よ。」
黒髪の女性、遠坂凛は即座に言い返す。
その瞳には、かつて自身が参加した"第五次聖杯戦争"を思い起こし、強い憤りが宿っていた。
「あら、奇遇ですわね。 私も全く同意見。 …あれ程までに前例なき制度を、まるで試験でもするかの様に強行するなど、あまりにも下らなすぎますわ。」
ルヴィアの口調はあくまで優雅だが、声の奥に怒気を含んでいることを、凛は見逃さない。
なにせ、この犬猿の仲である相手のことは、嫌でも手に取る様に分かってしまう。
しかし、それは2人の担任であるロード・エルメロイⅡ世の頭や胃を壊す要因の1つとも言える。
「…こんな状況でアンタと意見と利害が一致するなんて皮肉よ。 けど……先生が"新制度"を止めようとしてる以上、わたし達も足並みを揃えるべきだわ。」
凛は不満げな表情を浮かべながらも、握手の手を差し出す。
「一時休戦、ってことでどう? 飽くまで"その間だけ"だけど。」
凛の差し出したその手に、ルヴィアは軽く驚き、やがて自分も手を差し出し――――
「えぇ、それでも構いませんわよ? たまには共闘も悪くはありませんもの。」
ルヴィアもそれに呼応するかの如く、2人の手が静かに重なる
こうして、犬猿の仲の2人が協力をすることとなった。
だが、その握手には万力の様な殺傷力があり、互いが互いの手を潰さんとばかりに、骨をギリリギリリと軋ませている。
更には互いを見合うその目に、早くも火花が散っていたのは、言うまでもない。