やがてセイバー陣営とアーチャー陣営は、指定の桜谷公園へと辿り着いた。

この時間帯は幸いにも人影がなく、模擬戦を行うにはうってつけの静けさだった。

「一竜殿、ランサーの時とは違い、アーチャーは遠距離攻撃を主とするサーヴァントです。 状況の違いを念頭に、指示にはご留意くださいませ。」

「……ああ、わかってる。」

セイバーと一竜が、真剣な眼差しを交わしていた。

その様子は、すでに開戦を意識した緊張感に満ちていた。

一方その頃、アーチャー陣営では、少しだけ不安げな恵茉が口を開く。

「アーチャー、模擬戦っていっても、ここに来てから初の実戦でしょ? 大丈夫なの?」

「問題ねぇさ。 こっちだって、生前じゃぁ街のゴロツキどもを相手にしてきたし、今も射撃場で感覚も取り戻してる。 むしろ、腕が鳴ってるくらいだぜ」

頼もしげな笑みを浮かべるアーチャーは、どこか高揚した様子が見られた。

こうして双方の確認が済むと、セイバーとアーチャーがしばし無言で視線を交差させ──

次の瞬間、模擬戦の火蓋が切って落とされた。

「──さて、お手並み拝見といこうか!」

そう言って、アーチャーが愛銃のS&W M3をセイバーに向け、引き金を引く。

乾いた破裂音が響くと同時に、リボルバーのシリンダーが回転し、四発の弾丸が唸りを上げて放たれた。

だが、セイバーは眉一つ動かさず、抜刀と同時に二発を斬り払い、残る二発は鋭いステップで軽々といなす。

「ふぅ、流石は東洋のサムライ! 勇気と技が一体になってやがる!」

アーチャーが素直な賞賛を送ると、セイバーは冷静に応じた。

「“侍”という表現は、私には相応しからぬものです。」

その発言の裏には、彼女の生前の立場──

“仕える者”ではなく“仕えられる者”としての矜持があった。

「おっと、そりゃ失敬。 ──だが、戦いが面白くなってきたのは確かだ。 早速、隠し芸でも披露してやるか!」

そう言うなり、アーチャーはセイバーの正面から外れた位置へ銃口を向け、残る二発をほぼ同時に撃ち放つ。

放たれた弾は、園内の時計塔の柱と、茂みに隠れた石の囲いに当たった。

そして、そのまま跳弾となってセイバーの背後を襲う!

「……ッ!」

セイバーは瞬時に気配を察し、身を翻して紙一重で躱した。

かすかに鎧を掠めたものの、致命傷には至らなかった。

「跳弾!? まさか、そんな技まで使えるのかよ……!」

その巧妙な奇襲に、一竜は思わず目を見開いていた。

「ははっ、初見でその読みか。 やっぱお前さん、ただ(もん)じゃねぇな、セイバー!」

アーチャーは満足げに笑みを浮かべ、セイバーを素直に称賛する。

「アーチャー、思ってたよりずっと戦えるじゃん!」

「だろ? ガスガンでの訓練も、意外と馬鹿にできなかったぜ!」

恵茉は驚きつつも、彼の成長ぶりを実感する。

そしてその横で、アーチャーは手際よく、空になったリボルバーの装填を開始していた。

「セイバー、ちょっと不利なんじゃないか?」

「ええ。 火縄銃(種子島)よりも発射間隔が短い分、正直、厄介です。」

刀一本を武器とするセイバーに対し、アーチャーの持つのは連射可能なリボルバー。

距離の利も含め、一竜の懸念は至極もっともなものだった。

その心配はただの杞憂とはならず、実際セイバーもアーチャーの早撃ちに手を焼いていた。

「よし、セイバー! もういっちょいこうぜ!」

二人の会話をよそに、アーチャーは左手にももう一丁のリボルバーを構え、二丁拳銃で交互に引き金を絞り続ける。

「……されど、決して勝機がないとは申しません。」

そう呟いたセイバーがアーチャーを鋭く見据え、一歩を踏み出した。

「……セイバー!?」

一見無謀とも取れる行動に、一竜が思わず声を上げるが──

彼女は、驚異的なフットワークで全弾を回避しながら距離を詰めていた。

「えっ、セイバー!?」

「嘘でしょ!? もう見切っちゃったっていうの!?」

一竜も恵茉も、その光景に両目を見開いていた。

アーチャーでさえ驚きながらも、その顔にはどこか楽しげな笑みが浮かんでいた。

「銃口の動きを読めば、大体の狙いは分かります!」

「すごいぞ、セイバー!」

その吸収力は、彼女が日頃から発揮しているボードゲームや状況判断の巧みさそのものだった。

「フッ、やっぱり面ぇいな。 じゃあ、これならどうだ!」

感嘆すら覚えたアーチャーは、残弾三発ずつの両手のリボルバーで跳弾の応酬を仕掛ける。 しかし、セイバーはそれすらも華麗なフットワークとダッキングで躱し、掠り傷ひとつ負わなかった。

「ヒューッ、まるで映画のワンシーンだな!」

アーチャーはまるでアクションスターの演技を目の当たりにしたかのように、セイバーに魅了されていた。

──カチッ。

「……っと、弾切れか。」

そのあまり、アーチャーは自分が計十二発を撃ち尽くしたことさえ忘れていた。

同時に、すでにセイバーは、彼の懐に入り込んでいた。

「セイバー!」

「アーチャー!」

一竜と恵茉が同時に叫ぶ中、セイバーの刀の峰が、寸分の狂いなくアーチャーの胸元に突きつけられていた。

数秒の静寂と緊張が場を支配し、小さな風すら止んだかのような空白ののち──

「……ははっ、参った。」

アーチャーが笑いながら沈黙を破り、リボルバーをホルスターへ仕舞うと、両手をセイバーに向けてひらひらと振る。

セイバーも、それに応じてゆっくりと刀を引き、静かに鞘に収めた。

「見事だよ、予想以上だった。」

アーチャーはサムズアップでその健闘を称え、セイバーも静かに一礼を返す。

「……ありがとうございました。」

「二人とも、すごかった……! なんだか映画を観てるみたいだった!」

模擬戦では敗北したものの、恵茉はその芸術的ともいえる戦いに心を打たれていた。

彼女がもともと映画好きだったこともあり、その光景はまさにスクリーンを超える迫力だったのだろう。

「はは、映画だったらいいんだけどな。」

一方の一竜も、ランサー戦とは違う緊張感と迫力に圧倒されつつも、苦笑いを浮かべていた。

──こうして、同じ大学に通うふた組の陣営による模擬戦は、静かな余韻を残して幕を閉じた。