各陣営がそれぞれの日常を過ごしていた、数日後のこと──

冨楽は、自らの地元にある山奥で、バーサーカーと共にいた。

疲弊した心を癒す為の気分転換、そして何より、異常なまでの燃費を誇るバーサーカーの食糧問題を解決する為に。

所有者不明のその山で、彼らは誰にも見つからぬ様、密かに害獣狩りをしていた。

「グオォォォ! ニク! ニクッ!」

バーサーカーが猪や蛇を豪腕で捕まえ、岩や樹木へと容赦なく叩きつけ気絶させる。

まるで子供が虫取りを楽しむ様な無邪気さと、圧倒的な暴力性が混在した光景を、冨楽は静かに眺めていた。

「まったく……やっぱ野生の肉こそが本来の主食だからか、イキイキしてるなぁ。」

簡易キャンプの設営を終えた冨楽は、まるで何かに取り憑かれていた頃の自分を忘れた様な、久々の穏やかな笑みを見せていた。

今、この瞬間に限っては、彼もまた只の青年だった。

「マスター……クオウ……!」

やがて、バーサーカーが嬉しそうに両腕いっぱいの獲物を抱えて戻ってくる。

猪、蛇、鹿、ハクビシン……その量は、一般の猟師が一生かけても捕まえきれぬ程だった。

「おいおい、ちょっと待て待て……な?」

冨楽は慌てて手をかざし、摘んだ木片の側へ小走りに駆け寄る。

その横には、先程川で汲んできた水を張ったバケツがある。

「いいか、バーサーカー。 お前と違って、俺達人間は火で肉をちゃんと焼かないと腹を壊す。 最悪、死ぬぞ。 今、火を起こすからな。」

まるで子供に教えるかの様に、冨楽は焚き火の薪を組み直し、ライターで火を灯す。

炎がゆっくりと、そして確実に燃え広がっていく。

「よし、まずは蛇の皮剥ぎからだな。」

冨楽はスマートフォンで解体手順を確認しながら、気絶した蛇に手を伸ばす。

その時だった。

「……グゥゥゥ……!」

突如、バーサーカーが苦しげな息を吐きながら、焚き火へとじりじり近づいていく。

「……? おい、どうした?」

その異変に気づいた冨楽が問いかけた直後──

「フンッ!!」

バーサーカーは大きな平手で、焚き火を一撃で叩き潰した。

火花が散り、炭が宙を舞い、辺りの草木に燃え移る。

「えぇぇっ!? ちょ、おい、何してんだバーサーカー!!?」

冨楽は慌ててトングで炭をかき集め、水を撒いて消火に走る。

「……どうしたんだよ!? 何があった!?」

まだ荒い息を吐くバーサーカーの胸元に、冨楽が問いをぶつけると──

オレ(オデ)……ヒ……キライ……。 オレ(オデ)モ……ナカマモ……ヤカレタ……。」

「……えっ……?」

その言葉に、冨楽は思わず言葉を詰まらせた。

スマートフォンを開き、バーサーカーの史実を検索する。

そこには確かに記されていた──

彼は生前、敵軍の火攻めにより、味方と共に全滅したと。

「……そうか……燃えやすい防具を利用されて、焼き殺されたのか……。」

「ナカマ……マモレナカッタ……。」

絞り出す様に紡がれる苦悶と後悔の声は、いつもの無邪気で元気なバーサーカーらしくないものだった。

冨楽はしばし無言となったが、やがて小さく息を吐き、288cmの巨体をポンポンと叩く。

「大丈夫だ。 今度は俺がちゃんと見てる。 火が広がることはないって。」

「……ホントカ……?」

「本当だとも。」

僅かに光を取り戻したバーサーカーの表情に、冨楽は頷いた。

再び火を起こし、今度は小さな炎で焚き火を整える。

「そういえばバーサーカー、お前の願いって、まだ聞いてなかったな。 聖杯に、何を望むんだ?」

蛇の皮を剥ぎながら、ふと冨楽が問いかける。

バーサーカーはしばらく黙し、やがてぽつりと答えた。

「……モエナイボウグ……ホシイ……。」

「……あぁ、やっぱりな。 もしそれがあれば、あの時……仲間も守れたかもしれなかったんだよな……。」

焚き火の小さな炎を見つめながら、冨楽の声は次第に沈んでいく。

「ソレデ……ナカマ……マモレルカモ……。」

彼もまた、生前では多くの部下の上に立つ存在だった。

戦の最中で、火攻めによって火だるまになりながらも敵陣と闘っていたその勇姿は、本来の豪胆さ、そして仲間を守る思いが込められていたと言えよう。

だからこそ、仲間を守る力、それこそがバーサーカーが最後に欲したものだった。

「ダカラ……マスター……オレ(オデ)ガマモル!」

「……ははっ、ありがとな。」

バーサーカーの気持ちを受け取った冨楽は、話の途中で皮を剥いでいた蛇の水洗いを終え、焚き火にかける。

やがて、バーサーカーが害獣の肉を生で貪り、冨楽も肉を焚き火で焼き、塩・胡椒・焼肉のタレで味付けをしつつ、それぞれの好きな様に食べた。

静かに、穏やかに、時間が流れていく。

だが、冨楽はもう、後戻り出来ない場所に立っている。

自分のやっていることが常軌を逸していることなど、最初から解っていた。

だからこそ、いっそ必要悪として憎まれる覚悟を持っていた。