バーサーカー陣営による連日の“ぼったくり店襲撃事件”に眉をひそめていたのは、ロード・エルメロイⅡ世達だけではなかった。

──ここで、一度それぞれの陣営の反応を覗いてみよう。

ロード・エルメロイⅡ世が疲労に負け、止む無く眠りについてから間もなく。

一竜とセイバーは、ちゃぶ台を囲んで穏やかな休日を過ごしていた。

しかし、その安らぎはニュースの一報であっけなく崩れ去る。

『ぼったくり居酒屋襲撃事件について、新たな情報です。 昨日、宇田区大和田坂にて、食料庫が大柄の男によって荒らされました。 幸い今回も死傷者は出ませんでしたが、警察は関連事件として大規模な捜査に乗り出す模様です。 専門家の意見によりますと── 』

まるで機械の様に無機質なアナウンサーの声と共に、映像には無残に破壊された店舗の様子が映し出されていた。

「一竜殿、またバーサーカーと思しき襲撃の(しら)せですね。」

「あぁ……死人が出ていないのはまだ救いだけど、この調子じゃ止まる気配はなさそうだな。」

二人の視線はテレビに釘付けのまま、声には重い響きが混じる。

「それにしても、こんな目立つやり方をするなんて……マスターの衝動なのか、シリルの詰めの甘さなのか、それとも見せしめか……まだ判断がつかないわね。」

「……過去の戦でも、圧政を敷く領主を討つ為、義賊が台頭した例はあります。 しかし、それがそのまま正義となるとは限りませぬ。」

セイバーの一言は、正しさだけでは世界は動かないという現実の重さを滲ませていた。

三人の間に沈黙が落ちる──

……と、そこへ一竜がふと視線を横にやり、その沈黙を破る様に口を開く。

「……で、凛さん? なんでいっつも当然の様に寛いで、しれっとお菓子までつまんでるんです?」

「しょうがないじゃない。 ロード・エルメロイⅡ世(先生)がダウンして寝ちゃってるんだからぁ。」

ちゃぶ台の上のお菓子に手を伸ばす凛を、セイバーは特に気にするでもなく緑茶を啜る。

一見のんびりとした光景だが、この場にも見えない緊張の糸は確かに張られていた。

同じ頃──

アーチャー陣営もまた、リビングでコーヒーを片手に同じニュースを眺めていた。

「またかぁ……。」

「まただな……。」

統率感のある現代人と、数多の無法者を相手にしてきた歴戦の保安官。

二人とも、最早驚きよりも静かな諦観(ていかん)の色を帯びた声だった。

やがて、恵茉がマグカップを置き、アーチャーに問いを投げる。

「ねぇアーチャー。 ルヴィアさんもまだ、新制度賛成派の”動機”が掴めてないって言ってたけど……サーヴァント目線で、何か思い当たることってある?」

それはロード・エルメロイⅡ世が事件解決の為に注視している、“Why done it?(ホワイダニット)”──

つまり”何故やったのか”という核心部分である。

要注意人物であるシリルは、若さ故か常にレールから外れた行動を取り、新制度反対派から見ても動機は霧の中だった。

「さぁな……キテレツな魔術師連中の考えることなんざ、俺にはわかんねぇな。」

「……そっか。 ま、そうだよねぇ。」

アーチャーが肩を竦めてコーヒーを啜り、恵茉も苦笑を返す。

そして二人は再び、淡々と流れるニュース映像に視線を戻した。

同時刻──

ランサー陣営もまた、リビングで同じニュースを見つめていた。

「ひぃ〜……ランサー、また怖くなってきちゃったよぉ!」

連日のぼったくり店襲撃の惨状に怯えた亜梨沙は、ソファの上でランサーにしがみついていた。

「ふぅん……この様子だと、主に繁華街のゴロツキ共がターゲットみたいだな。」

ランサーは真剣な眼差しで顎をさすり、画面を凝視(みつ)める。

映像には、震える声で出来事を語る居酒屋店主の姿があったが、その風貌はどう見ても善良な経営者とは言い難かった。

「まぁ……しばらくこの住宅地で大人しくしてりゃ、あんな騒ぎには巻き込まれずに済むだろ。」

そう告げると、怯えきった亜梨沙の肩を軽くポンポンと叩いた。

「……本当(ほんと)?」

「おう! だから、あんまビビるなって! 何かあっても、亜梨沙にはオレが着いてんだからよ!」

胸をドンと叩くその姿に、亜梨沙も僅かに不安を和らげ、笑みをこぼした。

──ランサーがいる限り、大きな災厄には巻き込まれない。そう信じられた。

同時刻──

ライダー陣営は、轡水(ひすい)の薄暗い部屋で、ネットニュースを閲覧していた。

「ふむ……例のバーサーカー陣営の仕業とされる事件、数日に渡って続いているな。」

ライダーは顎に手を当て、映像を静観していた。

その隣で、退屈そうに画面を眺めていた轡水(ひすい)がこう吐き捨てる様に言う。

「反社ばかり狙ってるみたいだな。 どうせ偽善者気取りだろ。」

「……見過ごすよりも行動することが大切だと私も言ったが、これは過剰だな。 騙される民を減らすにしても……。」

確かに、襲撃は善行と呼ぶにはあまりにも度を越していた。

「くだらない。 騙される弱者の方が悪いんだ。」

「京介……。」

鼻を鳴らす轡水に、ライダーは”また始まったか”と呆れた表情で声をかける。

しかし轡水は気にも留めず、ニュースを閉じてデイトレード画面へと切り替えた。

人の道を外れた者を見過ごすも、止めるも、度が過ぎれば新たな火種となる。

ライダーは、生前の祖国の征服前や戦中の光景を思い返し、その重さに小さく息を吐いた──

そして今まさに、そのバーサーカー陣営を前に、キャスター陣営が静かに戦闘準備に入っていた。

既にキャスターの普段着は魔術によって弾かれ、礼装たる古代中国の軍師の装束に変わっている。

「キャスター、もう賽は投げられちゃったね。」

纐纈(くくり)は軽いストレッチをしながら、決意を固めていた。

「あぁ。 だが、いい目を出してみせるさ。」

目の前に立ちはだかる身長288センチの巨躯を前にしても、彼女の余裕の笑みは崩れない。

「さぁ(つかさ)、いこうか!」

「うん!」

戦闘態勢が整った瞬間──

「グオォォォ!」

「バーサーカー、行くぞ!!」

バーサーカーの咆哮に呼応し、冨楽の怒声が戦場を震わせた。

こうして、過去の愚行に対する贖罪と、遅れて訪れた制裁が交差する戦いの幕が、静かに上がった。