それから、幾ばくかの日が流れた──
つい先日まで世間を賑わせていた、半グレ組織によるぼったくり居酒屋襲撃事件の影も形も消えたとニュースは報じていた。
無論、それはキャスター陣営との死闘の果てに、事件の当事者であるバーサーカーが消滅し脱落したことによるものだった。
この事実は既に魔術師の間でも共有されており、叡光大学のキャンパス内で、凜が一竜へと状況を説明していた。
「へぇ! もうバーサーカー陣営は落ちちゃったんですね!」
万が一の戦いに備え、緊張していた一竜は、キャンパス内の休憩所でようやく安堵の息を吐き、笑みを浮かべた。
「そうなのよ。 それも、先生……ロード・エルメロイⅡ世が監督してるキャスター陣営が仕留めたんだって。 あの人、『ミスター・纐纈は軽いノリでユニークだから心配だ』って零してたけど……どうやら杞憂だったみたいね。」
凜の耳にも、既にロード・エルメロイⅡ世から纐纈の話は伝わっていた。
連日キャスター陣営に振り回される彼のこと故、愚痴の一つや二つも零したくもなるのだろう。
「なるほど……。 まぁ、とにかくこれでしばらくは穏やかに大人しく過ごせそうですね。」
「……大人しく、ねぇ。」
一竜が缶ジュースを開け、呑気に口に運ぶ様子を横目に、凜は眉をひそめ、近くの体育館へと視線を移した。
「直さん、ありがとうございました!」
「井上さん、今回も助かりました。 いつもありがとうございます。」
「こちらこそ、ありがとうございました。 次回も宜しくお願い致します。」
そこには、剣道部の非常勤コーチのアルバイトを終えたセイバーが、部員達や顧問の冴島教授に見送られている姿があった。
「……本当に、もうこれ以上目立たないって誓えるの?」
「はは……はい。 心から誓います……。」
呆れて目を細め睨む凜に、一竜はバツが悪そうに苦笑いするしかなかった。
やがてセイバーも二人に合流し、バーサーカー脱落の話を耳にする。
「それは朗報ですね。 これでしばらくは稽古や研究に専念出来そうです。」
彼女もまた、一竜と同じように、安堵の色をその顔に浮かべていた。
「稽古ついでに剣道部の非常勤コーチなんて……本当随分大胆ねぇ。」
「お褒めいただき、光栄です。」
「褒めてないんだけど?」
セイバーの的外れな返答に、凜は只大きく溜息を吐くしかなかった。
一息ついたところで、一竜が缶をテーブルに置き、ふと尋ねる。
「そういえば、凜さんの先生が担当してる陣営って……どんな人なんですか?」
「ん〜、“新制度”のルール上、詳しくは言えないんだけどね。 先生の話だと──」
昼時で学徒達が次々と休憩スペースへ集まる騒めきの中、凜はロード・エルメロイⅡ世から聞き及んだキャスター陣営の話を語り出した。
その頃、当のキャスター陣営はというと──
先日のバーサーカー戦を巡って、ロード・エルメロイⅡ世とグレイが喫茶店で話を聞き出していた。
「まったく……君達がバーサーカー陣営と一触即発になってると聞いたと思えば、私が眠りに落ちている間に“バーチャルガイ”の開封動画が投稿されているとは……理解が追いつかん。」
疲労で泥の様に眠り続け、ようやく少し元気を取り戻したロード・エルメロイⅡ世は、頭を抱えて深い溜め息を吐いていた。
対して、目の前の纐纈は大型パフェを前に相変わらず笑顔を浮かべ、キャスターはチーズケーキにチョコレートソースをどっぷりとかけている。
「あははっ、心配かけちゃってごめんなさいねぇ。」
「でもまぁ、結果的にはこうやって勝てたんだから、儲け物だったね。」
二人の呑気な調子に、ロード・エルメロイⅡ世の溜息は止む気配を見せない。
「確かに……師匠もお二人のことを心配なさっていましたから。 ご無事と聞いて、胸を撫で下ろしていらっしゃいましたよ。」
グレイが目の前の甘味に視線を奪われつつ微笑んで付け加えると、ロード・エルメロイⅡ世は咳払いを一つ放った。
「……私が監督している陣営だからな。 君達が早々に脱落しては、寝覚めが悪いだけだ。」
そう言い誤魔化すものの、心配の色は隠しきれていない。
「でも、これでしばらくは平和が続くんじゃないですか?」
口元や頬に着いたパフェのクリームを拭きながら、纐纈が呑気にそう語ると──
「……今はそうとも言える。 だが、どの陣営がいつ動くかは分からん。 備えだけは怠らん様にしたまえ。」
ロード・エルメロイⅡ世の言葉は冷静だが、その裏には戦争の常としての確かな重みがあった。
これも、聖杯戦争経験者としての説得力と言えよう。
「とはいえ、現時点でちゃんと顔を知ってる陣営なんて、ランサー陣営くらいだよね。 残りの陣営の動きを読むのは、流石の私でも今じゃ難しいよ。」
異常な量のチョコレートソースに浸され、原型を失っていたチーズケーキを飲み込みながら、キャスターが肩を竦める。
「ああ……メルヴィンの奴が見ている陣営と接触していたのか。」
「メルヴィン……さん? 先生のお知り合いです?」
纐纈はランサー陣営と直接会っていたが、監督であるメルヴィンのことまでは知らない。
「ああ。 奴は古い知人でな……。」
昼下がりのランチ客が騒めくの喫茶店の中、目の前で繰り広げられる甘党地獄に胸焼けを覚えながらも、ロード・エルメロイⅡ世はメルヴィンについて語り始めた。
一方、そのメルヴィンはといえば──
彼が監督を務めるランサー陣営に、バーサーカー脱落の一報を届けていた。
「えっ!? じゃあ、もうあの怖いニュースは流れなくなるんですか!?」
連日のぼったくり店襲撃事件に怯えていた亜梨沙は、例のバーサーカー陣営が姿を消したことを知り、ぱっと花が咲く様な笑顔を見せていた。
『その通り。 これで休日も安心して外に出られるよ。 亜梨沙ちゃん、良かったねぇ。』
メルヴィンは宿泊先のホテルのロビーで、増血剤を服用しながらランチを楽しみつつ、音声通話越しに彼女へ穏やかな声を届ける。
「本当に……良かった。 ずっとアニメショップに行きたかったんですけど、ランサーがいてくれても怖くて……行くに行けなかったんです。」
『そうだったろうねぇ。 これでしばらくは平和が続くかもしれないし、思いっきり楽しんでおいで。』
「はい! ありがとうございます!」
こうして、今までの殺伐とした定時連絡は終わりを告げ、代わりに平和なやり取りがそこにあった。
ランニングを終えてソファに腰を下ろしていたランサーに、亜梨沙が弾んだ声で報告する。
「ランサー! あの暴れてたサーヴァントがいなくなったって!」
「おぉ! そりゃいい知らせだな! 亜梨沙、これで安心してお前も推し活……とかいうのが出来るんだろ?」
「ランサーぁ、からかわないでよ。」
悪気もなくからかう様な台詞に、亜梨沙が頬を赤らめて返す。
その照れくさそうな姿に、久しく忘れていた安らぎが宿っていた。
「はっはっは! だったら折角だ、早速準備してそのアニメショップに行こうじゃねぇか! ついでに、気になってたその近くのインド料理屋にもな!」
「あ、そうだね! あそこ、チャパティ?っていうのもあるんだよね。 私もそこのおすすめって言われてるグラブジャムンが気になってたんだ!」
「グラブジャムンは甘くて最高だぞ! おやつにぴったりだから、亜梨沙も絶対気に入ると思うぜ! そうだ、この前バナナをくれた青果店のおっちゃんにもお土産にするか!」
亜梨沙は久々のアニメショップへの期待に胸を躍らせ、ランサーはチャパティのカレーや青果店のおっちゃんへの礼を思い浮かべて意気揚々としていた。
ここにも、和やかで賑やかな日常が確かに戻って来ていた。
その穏やかさとは対照的に──
ライダー陣営にも、例に漏れず担当魔術師である化野菱理からバーサーカー脱落の報告が届いていた。
「……そうか。 あの正義ごっこの偽善者共は、ついに脱落したか。」
相変わらず、轡水は無愛想で無関心そうにそう語る。
『えぇ。 これでしばらくは、轡水様も平穏に過ごせるでしょう。』
「ふん。 こっちはいつでも戦争に応じる準備は出来ている。」
日頃から聖杯戦争そのものを肯定する彼は、僅かに目を鋭くした。
『ふふ、まだ他の陣営について何もご存じないのにですか?』
化野菱理は、相手を遇らうかの様に唇に指を当て、妖艶な笑みを零す。
当然、その対応に轡水が不機嫌そうな顔を見せたのは、言うまでもない。
「……なら、他の陣営について教えろ。」
『申し訳ありません。 新制度のルール上、魔術師による他の陣営の情報掲示は禁止となっております。』
明らかに氷の様に冷たく鋭い轡水に臆することなく、化野が淡々とそう返した。
「……例外はないと?」
『えぇ、例外はございません。 ですので、今は準備期間としておくのが賢明かと。』
「……そうか、なら仕方ない。そうしよう。」
彼が言葉を呑み込むと同時に、通話は電子音とともに切られた。
隣で槍を磨いていたライダーへと視線を向け、轡水は無感情に告げる。
「ライダー、例の正義ごっこの偽善者が仕えるサーヴァントが消えたぞ。」
「……そうか。 それならしばしの安息だな。」
まるで機械の様な淡々としたやり取りだが、ライダーの表情にはほんの僅かな安堵が見えた。
「だが、僕は準備に入る。 この聖杯戦争を、より有利に進める為にな。」
轡水の声は冷淡そのものだが、長く付き従うライダーには、その奥底に僅かな高揚が滲んでいるのを感じ取れていた。
「ところで京介よ。 其方の理想とやら……まだ明かす気はないのか?」
「……ふん。 今はまだその時じゃない。 いずれ話してやってもいいだろう。」
「そうか。」
ライダーは深追いせず槍の手入れを終えると、音もなく立ち上がる。
「京介、私は散歩に出る。」
「……飽きないな。」
「同じ日など二度もない。今日という日がこの街に齎ものを、この目で確かめたい故よ。」
そう言い残し、ライダーはひとり、街へと歩み出していった。
その背は穏やかに見えながらも、不穏な影を引きずっていた。
場面を戻して、セイバー陣営は──
凛から、キャスター陣営について飽くまで知らせすぎない程度に、情報を受け取り終えたところだった。
「ははっ、なるほど。 軽いノリのマスターに、斜に構えたサーヴァント……自由気ままにも程がある陣営ですねぇ。」
「そんな組み合わせとなると、どの様な戦い方をしてくるのか、まったく予測がつきませんね。」
ロード・エルメロイⅡ世が頭を抱えたという逸話にも合点が行き、一竜はどこか同情を込めて苦笑いし、セイバーもまた静かに微笑んでいた。
「そうよねぇ。 あまりにもセオリーから外れてるっていうか……そもそも言うこと聞かなそうっていうか。 わたしが担当だったら、とっくに一発引っ叩いてるわね。」
凛は半ば呆れ顔で、ボクシングのジャブやワンツーのジェスチャーを交えてみせる。
イメージするなら、凛が纐纈を引っ叩き、拳からは熱気が立ち昇り、彼の頭には立派なたんこぶが出来て静まり返り、その横でキャスターが肩を竦めてやれやれと言った様な表情で両手を上げる──そんな光景だろう。
「あぁ、それはわかりますよ! 凛さんなら本当にやりそうです!」
つい一竜も、手を叩きながら凜の話に納得すると──
「変な部分で納得するな!」
「ひぃっ! ごめんなさいぃっ!」
握り拳を掲げて威嚇する凛に、一竜は慌てて身を固くして謝罪しつつも内心では「(そういうところなのに。)」と思っていた。
そのいつもの様な光景に、セイバーは静かに微笑んだ。
「やっほー。 そっちも平和そうだね!」
そんな折、別の講義を終えた恵茉が手を振りながら近づいてくる。
「おっ、美穂川さん。 お疲れ。 まぁ、特にいつも通りだけどね。」
一竜は逃げる様に凛から距離を取り、手を振り返して恵茉の方へ歩み寄った。
背後では凛が軽く手を振り、セイバーも丁寧に会釈をしていた。
「その感じだと、貴女もルヴィアの奴からバーサーカー陣営の脱落を聞いたのね?」
「はい。 今朝、そのルヴィアさんから電話で──」
ここで、話は今朝、恵茉がルヴィアからバーサーカー陣営が脱落した旨の連絡を受けたところへ遡る。
『そういう訳で、これでしばらくは気張らずに過ごせるということですわ。』
スマートフォン越しに響くルヴィアの声は、宿泊先の豪奢なホテルの朝食と共に優雅そのものだった。
「そうなんですね! まぁ、別に生活自体はそんなに変わってませんけど。」
『あら、やはり貴方方は随分と肝が据わっていらっしゃるのね。 それは喜ばしいことですわ。 なら、しばらくは私から言うこともなさそうですわね。 では、ご機嫌よう。』
芯の強さを滲ませる恵茉の口ぶりに、ルヴィアは薄々感じていた安心を抱き、そのまま通話は途切れた。
電話を切った恵茉は、横でストレッチをしていたスポーツウェア姿のアーチャーへと向き直る。
「アーチャー、これでしばらく嫌なニュースは流れなくなるよ!」
「おぉ、それは朗報だな! そんなニュースを聞いてからじゃ、自転車に乗っても気分が悪いからな。」
アーチャーは、今日からまた心置きなくロードバイクを疾走させられると思うと、表情も身体もわかりやすく弾んでいた。
──ここまでが、アーチャー陣営の朝の出来事である。
「なるほど。肝が据わってるっていうか、何も解ってないっていうか……まぁ、ビクビクしてるよりはマシね。」
大学構内の自動販売機でアイスを買った凛は、感心した様に肩を竦める。
セイバー陣営、凛、恵茉がアイスを頬張りながら大学の門を出ると、まるで待ち構えていたかの様にロードバイクの影が近づいてきた。
「よぉ、恵茉。 今日もお疲れさん。」
現れたのは、近隣を一走りしていたアーチャーだった。
「アーチャー、今日はどこまで行けたの?」
「三つ先の街まで行って、今戻って来たところだよ。」
自由気ままにロードバイクを走らせるアーチャーは、子供の様に誇らしげに語っていた。
その姿は、例の事件騒動の前に戻ったかの様だった。
「……まったく。 どうして一般人がマスターになると、サーヴァントまで大胆になるのかしら。」
凜は、過去に自分が参加していた聖杯戦争が何だったのかの様に、頭を抱えてぼやいた。
「そんなに褒めるなよぉ。」
「褒めてないってば!」
更に、アーチャーによる的外れな返答で、呆れた凜の溜息が大きくなっていた。
完全に先ほどのセイバーとのやり取りを繰り返しているかの様で、心底疲れた様子だった。
「まぁ、今はしばらく休んで、次に備えておきなさい。 わたしはホテルへ戻るわ。 じゃあね。」
踵を返す凛を見送り、残ったセイバー陣営とアーチャー陣営は談笑しながら帰路につく。
「それにしても、オレ達もいずれ戦わなきゃならないんだろうなぁ。」
昼下がりの空を仰ぎながら、一竜が呟いた。
「確かにね。 私達は他の陣営について知らなすぎるし。 誰とぶつかるのかも予想がつかないもんね。」
恵茉もこめかみを押さえ、僅かな不安を口にする。
「戦いなんて、いつだって突然だ。 だからこそ備えが必要なんだよ。」
アーチャーはロードバイクを押しながら軽く語り、三人の歩幅に合わせた。
「私も、日々訓練や研究を重ねています。 故に、戦いには備えられていると思います。」
セイバーの声音には確固たる自信が宿り、その表情は凛としていた。
「おっ、そいつは頼もしいな! なぁ、一竜。」
「はは。 出来れば、戦いなんて起こんないで欲しいけどな。」
アーチャーが肘で小突いてからかえば、一竜は苦笑しつつも本音を漏らす。
やがて恵茉は自宅へ、アーチャーはもう一走りへと別れ、一竜とセイバーはたまには二人でのんびりしようと、桔梗区方面へ歩いていった。
こうしている間にも、今は穏やかな時間が流れていた──
強い西日が街を照らす昼下がり、要区のアニメショップからランサー陣営が姿を現した。
亜梨沙の腕には紙袋が抱えられ、その中には新刊やキャラクターグッズがぎっしり詰まっている。
隣を歩くランサーは、その紙袋と彼女の笑顔を交互に見やりながら、陽気に口角を上げた。
二人が次の目的地であるインド料理店へ向かい、軽快な足取りで扉を開いたその瞬間──
店先を、一陣の風が掠めて行った。
ロードバイクに跨ったアーチャーが、颯爽と通りを走り抜けて行ったのである。
彼にとって今は、ただ風を切ることだけが全てであり、すれ違った二人の存在など目にも入らない。
やがてアーチャーは、かつて訪れた桔梗区栄植の射撃場を目指して国道を駆け抜ける。
その横の歩道で、ガジェットショップの袋を手に、楽しげに談笑しながら歩く二人の男女がいた。
ロード・エルメロイⅡ世との面談の後、ゲーミングPC用のパーツを買いに出かけていた、キャスター陣営である。
彼らもアーチャーも互いに視線を交わすこともなく、只すれ違って行く。
しかしその瞬間、キャスターの瞳が僅かに揺れた。
去りゆくアーチャーの背を、ふと振り返る。
纐纈が袋を揺らしながらどうしたの?と言う様に問うと、彼女は小さく笑みを浮かべ、気の所為さと言わんばかりに首を振った。
再び前を向いた二人の視線の先には、クレープ屋の看板があった。
纐纈が親指を店へ向けると、二人は迷わずその甘い誘惑へと足を向ける。
まさにその時、反対側の歩道では、散歩途中のライダーが静かに歩いていた。
勘のいいキャスターも、クレープ屋の甘い香りに気を取られ、ライダーの存在と魔力には気付いていない。
ライダー自身も、この平和な街並みを過ごす人々の穏やかな日常を見渡し、微笑みながらゆっくりと歩く。
やがて歩みを進めると、以前見かけたハワイ料理の店の前を歩いていた。
彼も祖国の味に近い物を恋しく思ったのか、この平和な時の内に近々訪れようと、そう心に決めている様にも見える。
更にその先、隣町である茗渓町では、セイバー陣営が並んで歩いていた。
何気ない談笑を交わしながら進む彼らの道筋と、ライダーの歩む道は交わり、そして過ぎ去って行く。
互いは一瞥すら交わさず、只前を向いて進んだ。
だが、すれ違い様の一瞬、セイバーとライダーの背筋を、同時に冷たい感覚が走った。
セイバーが僅かに振り返ると、ライダーもまた一瞬だけ足を止めていた。
一竜が彼女にどうした?と言う様に問うが、セイバーは小さく首を振り、再び前を向いた。
ライダーもまた、ほんの数秒の逡巡の後に歩を進めていく。
それ以上、互いを追うことはしなかった。
だが、両者の胸裏には、同じ言葉が静かに響いていた。
──「只者とは思えない。」
いずれ訪れるであろう再会を予感させながら、それぞれの道へと消えて行った──