アーチャーとランサーによる決闘は、明確にアーチャー優位で推移していた。

距離、弾道、戦術──いずれもが噛み合い、流れは彼の手中にある。

「……はっ。」

アーチャーの口元が緩むのは自然なことだが──

「へへっ……!」

対するランサーもまた、それでも尚笑っていた。

満身創痍に近付きつつあるというのに、その表情はどこまでも晴れやかだった。

「ランサー……お前さん、本当にタフだな。」

銃口を揺らしながら、アーチャーが低く言う。

「まっ……だからこそ、攻めがいがあるってもんだがな。」

「だろ? こうでなくっちゃよ!」

ランサーは息を弾ませながらも、笑みを崩さない。

「今は押されてるけどよ……亜梨沙が“何か”掴みゃ、まだひっくり返るぜ?」

その声音に、一切の迷いはない。

ただの励ましではない、確信に近い信頼である。

それが、この戦場に確かに存在していた。

命を賭けているはずの今でさえ、 二人にとっては連日の“競い合い”の延長線上にあった。

「(……どうして。)」

その光景を見つめる亜梨沙の胸は、締め付けられる。

「(どうして……こんな状況で……二人とも、あんなに楽しそうなの……?)」

闘いとは無縁の世界で生きてきた彼女には、何一つ理解できない。

怖く、苦しく、それでも目が離せられずにいた。

「アーチャー!撃つだけじゃなくて、ちゃんと動いて!」

恵茉の的確な指示の声が、夜の公園に飛ぶ。

「槍の間合いに入られたら終わりだよ!」

「分かってるさ。 近付かせねぇ──それが全部だ。」

アーチャーはその言葉に軽く応じる。

余裕は崩れず、判断も鈍らず、戦況を掌握している者の確かな声音だった。

「おっと、まだ終わりじゃねぇぞ!」

しかし、負傷をものともせず、ランサーがただ前へ距離を詰める為に地を蹴る。

その背中を、亜梨沙はただ見つめることしかできない。

「(どうしよう……)」

胸の奥が、ざわつく。

「(こんなに状況が変わってるのに……私(あたし)、何をすれば……?)」

焦りと恐怖と恐怖で思考がまとまらず、何もできない自分に押し潰されそうになっていた。

その時、ふと脳裏に閃くものがあった。

「(……! そう言えば、メルヴィンさん、あとSMOKEさんとキャスターが……!)」

数日前の記憶が、断片的に繋がる。

──“理屈じゃない。 亜梨沙ちゃんが“信じたい”と思うものを信じるんだ。”

──“使えそうな手段を、片っ端から試してみるのはどうです?”

──“亜梨沙の持ち味が、ランサーの武勇を補う瞬間。 その一点が勝利の女神を微笑ますのさ。”

言葉は単純だったが、今のこの状況だからこそメルヴィンや纐纈(くくり)やキャスターのそれが刺さる。

「(でも……。)」

思い出しただけでは、何も変わらない。

現実は、目の前にある。

選ばなければならない──動かなければならない。

その変化を、見逃さない男がいた。

「おっ。 亜梨沙……顔、変わったな!」

ランサーが、戦闘の最中で視線を向ける。

「何か……掴めそうか?」

「……えっ!? えっと……その……まだ……。」

突然の問いに思考が途切れ、言葉が揺れる。

「ははっ! いいっていいって! 思いついたことをやってみろよ!」

だが、それでもいいとばかりに、ランサーは笑いながら、まるで背中を押す様に続けた。

「“自分を信じろ”って、言われてたんだろ?」

その一言が、彼女にとっての決定打だった。

「……っ。」

胸の奥で、何かが弾ける。

怖いままでもいい──不安なままでもいい。

「……うん。 やってみる。」

それでも亜梨沙は小さく、しかし固く頷いた。

涙を拭うも、震えはまだ消えない。

それでも視線はもう逸れず、真っ直ぐにランサーを捉える。

「……ほぉ。」

アーチャーが、相棒をクルクルと回しながら小さく息を漏らす。

「あの目……いいねぇ。」

「うん。 これは……面白くなりそう。」

恵茉も、変わってきた亜梨沙を見つめながら小さく頷く。

敵味方を越えて、誰もがその変化を感じ取っていた。

この戦いは最早、ただの決闘ではない。

互いを高め合う、研ぎ澄まされた衝突。

そして今、その中心に新たな火種が生まれようとしていた。

「でも……今の状況で、私に出来ることって……?」

思考を巡らせようとした、その刹那──

「よし、捉えた!」

「──ッ、やるじゃねぇか!」

再装填の僅かな隙を狙い澄ましたランサーの踏み込みが、地を裂く様に加速する。

振るわれた槍は空気を断ち、一直線にアーチャーへと迫った。

──ザァンッ!

「っと……!」

アーチャーは紙一重で鋭い刺突を躱す。

穂先はそのまま地面へと突き立ち、砕けた土塊が爆ぜる様に宙へ舞い上がった。

「……っ!」

その光景が、亜梨沙の中で何かを繋げた。

「(……今の……!)」

閃きはほんの一瞬で、理屈ではない直感だけがあった。

「やってみなくちゃ……!」

両手を前へ出し、狙うのは──宙に散った土塊。

「やってみなくちゃ……っ!」

次の瞬間。

──ボンッ!!

小規模な爆発魔術が、空中の土を巻き込み炸裂する。

視界を埋め尽くす砂塵と細かな破片が、前方へと叩きつけられた。

「うっ……!」

自然の産物と魔術による目眩しに、アーチャーの視界が一瞬で奪われる。

「ちょいと……こいつはマズいな。」

「サンキュー、亜梨沙!」

その一瞬をランサーが見逃す筈もなく、迷いのない踏み込みと鋭い槍が風を切る。

「──ッ! ぐっ……!」

今度は躱しきれない。

直撃は避けたものの、脇腹を浅く抉る一撃が入る。

「ははっ……ついに貰っちまったか。」

痛みの中でさえ、アーチャーは笑う。

だが、確実に流れは揺らいでいた。

「だがよ……! まだ、こいつらは生きてるぞ!」

静音の弾丸が、再び夜の戦場を支配し出した。

「っ……! おっと……!」

ランサーの身体が跳ねるも、左肩、右脇腹、弾丸が掠めて血が散る。

致命には至らないが、それでも確実に削られていく。

だが、亜梨沙はもう目を逸らさなかった。

恐怖は消えていないが、アドレナリンが上がっているのか、視線は戦場の“全体”を捉え始めていた。

「(さっきの……土……爆発であんな勢いで飛んだ……あれ、他にも使えない……?)」

視線が落ち、足元を見据えると、いくつもの石が転がっていた。

「(……やってみなくちゃ。)」

膝を折り、震える手でひとつを掴む。

その間にも、アーチャーは既に慣れた手つきで再装填を終えようとしていた。

「(……今しかない!)」

息を止め、力を込めて投げた。

当然、運動神経に恵まれていない彼女の非力な腕では、アーチャーへ届く訳が──

──ボンッ!!

──ビュンッ!!

「──!?」

「──おおっ!?」

「──えっ!?」

なんと、あってしまった。

──ガンッ!!

「ぐっ……!」

爆ぜた力が石を加速させ、アーチャーの左手を撃ち抜いていた。

それは最早“投擲”ではない──撃ち出された弾丸である。

衝撃により握力が断絶され、弾かれる様に左の銃が宙を舞う。

残るは、未装填の右手の銃のみだった。

「亜梨沙!! ナイスだ!!」

歓喜とともにランサーが駆け、一気にアーチャーと距離を詰める。

「行くぜッ!」

「甘ぇな!」

ランサーの槍が走るも、左手を撃ち抜かれただけではアーチャーもまた止まらない。

不利な体制であっても、強化された脚が地を蹴り、半身でその刺突を躱す。

「っ……!」

刃は胸元を浅く掠めるに留まる。

浅く、だが確実にアーチャーは追い詰められていた。

「アーチャー! 大丈夫!?」

「ははっ……まぁ、万全とは言えねぇな。」

恵茉の声が飛ぶも、それでも彼は笑う。

そして、ゆっくりと視線を亜梨沙へ向けた。

「……亜梨沙、やるじゃねぇか。 失礼かもだが、そんな機転持ってるとは思わなかったぜ。」

だがその瞳はまだ死んでおらず、賞賛や素直な感嘆さえ投げられた。

「──だがな。」

右手の銃に、弾が込められる。

だが、左手の損傷が明確に影響しているのか、その動きはどこかぎこちなくなっていた。

「俺は……まだ終わっちゃいねぇ。」

地を蹴り、再び距離を取る。

だがその動きには、僅かな“歪み”があった。

「へへっ! いいねぇ! これで一気にひっくり返せそうだぜ!」

「……ふっ、面白ぇ。 まだ、勝負はここからだろ?」

それでも尚、二人の熱は大いに増していた。

「(すごい……! こんな熱い闘い……映画でしか見たことない……!)」

恵茉は、ただ見つめるしかなかった。

血が流れ、命が削れ──それでも、誰の目も死んでいない。

「(亜梨沙さんも、自分を削ってでも……ランサーを支えてる……!)」

視線が移った先には、肩で息をしながら指も震え、それでも前を向く亜梨沙の姿があった。

左手でずり落ちかけた眼鏡を押し上げ、右手でベンチの背もたれを強く掴みながら、決して視線だけは逸らさない。

そこにはもう、逃げたい気持ちは残っていなかった。

これは恐怖ではない──参加である。

闘いの中に、自分の意思で立っている。

夜の公園に満ちる空気は、変わっていた。

しかし、やはり亜梨沙の体力がすでに限界へと差し掛かっていることもまた、紛れもない事実だった。

膝は笑う様に震え、呼吸も浅くなり、視界が地震の様に揺れる。

それでも彼女は、目の前で繰り広げられているのは自分が関わるべき闘いなのだと、そう理解していた。

「(どうしよう……あと一回……身体が保てるかどうかも分からない……。 ……でも……ランサーを、助けたい。)」

肺が焼ける様に苦しく、指先の感覚も曖昧である。

それでも、彼女は崩れ落ちない──否、“崩れ落ちることを拒んでいる”。

マスターとしてランサーを守りたい一心だけが、辛うじて彼女の身体を支えていた。

「(もう一度……今度は……右手を……。)」

絞った視線の先には、アーチャーの銃。

残された最後の牙を潰さなければ、この闘いは終わらない。

ふらつく足を必死に抑え込みながら、亜梨沙は再びしゃがみ込み、地面に転がる石を一つ拾い上げた。

その動作は、最早洗練とは程遠いが、確かに“闘う者の動き”だった。

サイレンサーに殺された六発の銃声のリズムを、フル稼働した耳で捉える。

「(右手を……右手を……!)」

右腕を振りかぶり、石を投げると同時に、魔術を起動した。

──ガクンッ

しかし、その瞬間に足元が揺らぎ、体勢が崩れる。

狙いが逸れたまま石が爆ぜ、推進力を得て加速していってしまった。

「(あ……あぁ……外した……。)」

理解した時にはもう遅く、絶望が胸を掠める。

それでも尚、勢いよく放たれた一撃はもう止まらない。

そのまま思いもよらぬ方へ一直線に飛び、ついには──

──ガツンッ!!

「ぐっ……!」

石はアーチャーの右膝を打ち抜き、鈍い衝撃音を鳴らした。

さらに、まるで意志を持つかの様に跳弾され──

──ガンッ!

「っ……!」

反射した石が、今度は左膝を撃ち抜く。

「えっ……!? 今の……亜梨沙さん、そんなテクニックが……!?」

目を大きく見開いた恵茉には、それが計算された一撃にしか見えなかった。

「ははっ! オレには分かるぜ! 亜梨沙、今のはたまたまだろ?」

だが、亜梨沙のことだからこそ全て見抜いていたランサーは笑っていた。

「でもよ! これで勝ち筋が見えた!!」

両膝への損傷程度では、はっきり言って致命ではない。

だが、“動き”を殺すには、充分すぎる。

「っ……!」

アーチャーの重心が揺れるが、それでも尚も倒れない。

左足を僅かに引き、無理矢理にバランスを取り直す。

その姿は、最早技術ではない──気合いである。

だが、その一瞬の遅れをランサーは見逃さない。

「行くぜぇッ!!」

疾風(はやて)の様に駆け抜け、同時に槍が走る。

──ザスッ!!

「んぐっ……!」

先程の胸元の傷をなぞる様に、穂先が深く入り込む。

掠めるという域を超えており、骨に届きかねない一撃だった。

「アーチャー!!」

恵茉の声が、夜に響く。

だが、それでも彼は倒れない──崩れない。

血を流しながら、膝を震わせながら、それでもただ立っていた。

「……ははっ。 どんな闘いもよ……最後まで……分かんねぇもんだな……。」

息が荒れ、声が掠れながらも、それでも言葉を紡いで笑っていた。

その笑みは苦痛ではなく、素直な歓喜だった。

この瞬間、この闘いそのものを味わっている証である。

「アーチャー。」

ランサーが静かに、そして晴れやかに告げる。

「アンタとの闘い……最高だった。」

その時、手元の槍が光を帯び始めた

「だからよ──こいつで苦しまず終わらせてやるぜ。」

光が膨れ上がり、夜を飲み込む。

その光が晴れた先には、世界が塗り替わり、景色が変わった。

そこは、最早公園ではない。

荒涼とした岩山、峻厳なる山岳、神話の匂いを纏う異界──アーチャーは、その頂に立っていた。

「……おいおい。 ここでそれを出すか……。 最高じゃねぇか。」

苦笑いを含むアーチャーの目は、寧ろ輝いていた。

一方、麓ではランサーが孔雀に跨り、槍を構えている。

神の如き威を纏いながら。

「オレは──神軍の頂に立つべく生まれた存在。」

神の如き威を纏いながら声が響き、そして槍が唸るり、力が集束する。

「この槍は──悪を、闇を、不正を貫く。」

その光景に、亜梨沙はただ息を呑むしかなかった。

恐怖ではない──畏敬に近い何かだった。

「今──この一撃で、すべてを断つ!」

ランサーが振りかぶり、音を置き去りにする速度で投げられた槍は飛ぶ。

やがて、光を帯びて膨張し、その威容は最早兵器ではない。

神話そのものだった。

「こいつがオレの力──」

聖槍ヴェール(ヴェール・セー・パハール・コー・ベードナー)!!」

その槍がアーチャーの元へ辿り着くと、その衝撃が山へと伝わり──

山を大きく削った。

伝説の地形すら再現する程の一撃だった。

やがて固有結界が収まり、公園の静寂が戻った。

その中心に、アーチャーは満身創痍でありながら、尚まだ倒れていなかった。

「アーチャー。 アンタのその根性──本当に、嫌いじゃなかった。 それどころか……大好きだぜ。」

宝具を撃ち終えたランサーは、静かに槍を地に置き、どこか晴れやかな笑みを浮かべながらそう告げた。

その声音には勝者の驕りなど一切なく、ただ純粋な敬意と満足だけがあった。

「アーチャー!!」

ボロボロになったアーチャーの元へと、恵茉が慌てて駆け寄った。

満身創痍の彼の姿は、最早立っていること自体が奇跡に近い。

「……ははっ。」

それでも、アーチャーは笑っていた。

「恵茉よぉ……俺はな……すっげぇいい気分なんだ。」

「……えっ?」

あまりにも予想外の一言に、恵茉は思わず目を瞬かせた。

その隣で、亜梨沙もまた言葉を失っている。

「生前の俺の闘いなんざ……碌なもんじゃねぇ。」

アーチャーはゆっくりとポケットへ手を入れ、一本の煙草を取り出し、火を点けた。

「感情任せに殴り合ったりよ……荒くれ共と撃ち合ったり……兄弟と並んで血まみれになったり……。」

吐き出す煙と共に、過去が走馬灯の様に滲む。

「そこに、“気持ちいい”なんて感情は一つもなかった。 ……それがどうだ。」

更に口角が上がり、どこかその声にも高揚が見えていた。

「ここで……こんなにも気持ちよく闘えた。」

静かに、しかし確かな実感を込めてこう放たれる。

「ワイアット・アープとして……これ以上ねぇ、“誇りある一戦”だった。」

その言葉に、恵茉の胸にあった焦燥がふっと解け、自然と笑みが溢れた。

「あはは……そっか。 いい相手に出会えたんだね。」

寂しさがないと言えば嘘となる。

それでも、映画のエンドロールを見終えた後の様な、どこか満たされた余韻が彼女の中に残っていた。

やがて、光がアーチャーの身体を包み始める。

消滅の時が確実に近付いている証拠だった。

その前へ、ランサーが静かに歩み寄った。

「アーチャー。」

その声には、どこまでも真っ直ぐな感情が乗っている。

「オレも……アンタと戦えて、本当に最高だった。」

「へへっ……ありがとよ。」

二人は向かい合い、強く固い握手、続いて抱擁が交わされた。

そう、言葉では足りないものを確かめる様に。

「こんな楽しい闘い……オレも初めてだったよ。」

「このスカンダの戦歴の中でも……間違いなく、随一だぜ。」

「ははっ……神様にそこまで言われちゃあ……光栄ってやつも度が過ぎるな。」

煙草を指に挟みながら、アーチャーは肩を竦める。

火は、すでに短くなっていた。

その赤い先端が、まるで命の残り火の様に揺れる。

「……恵茉。」

「ん?」

視線を向けられ、恵茉は柔らかく応じる。

その表情は少しだけ寂しげで、それでもどこか優しい。

「コーヒーも……自転車も……楽しい時間をありがとな。 自転車はよ……必要そうな奴にでも、恵んでやってくれ。」

「あはは、了解。 自転車のことは任せてよ。」

肩を竦めながらも、恵茉はしっかりと頷く。

それが最後の会話だった。

次の瞬間、光が静かに収束する。

そして、現代に戻ってきたワイアット・アープ──アーチャーは跡形もなく消え去った。

「……ふぅ。 最後まで……ほんと、アーチャーらしかったな。」

小さく息を吐く恵茉には涙はないが、その声には確かに“別れ”の余韻が宿っていた。

「……恵茉ちゃん。」

心配になった亜梨沙が、そっと声をかける。

その優しさにランサーも気付き、静かに亜梨沙の肩へ手を置いた。

それでも、恵茉はゆっくりと深呼吸をし、二人へ顔を向けて笑った。

「亜梨沙さん、ランサー。 アーチャーを……あんな風に楽しく気高く闘わせてくれて、ありがとうね。」

思いもよらぬ言葉に、一瞬亜梨沙は言葉を失うも──

「はっはっは!」

ランサーが、いつも通りに豪快に笑った。

「礼を言いてぇのはこっちだっての! アーチャーのお陰でよ、コーヒーってやつに興味が湧いたんだからな!」

その軽やかなやり取りに、張り詰めていた空気が少しずつ解けていく。

ただ一人、亜梨沙だけがまだ整理しきれずにいたが、それでも二人の笑顔を見ているうちに少しずつ、心が追いついていく。

「こんな真夜中だけど、色々あったからお腹空いちゃったよね。 なんか食べて解散しよっか?」

「おぉっ、賛成だぜ! 亜梨沙も賛成だろ?」

先程まで闘い合っていたのが嘘かの様に、まだ笑顔で話し合っていた。

これこそが、アーチャーが望んでいた決闘の後の状況だと理解しているかの様に。

「……うん。 今日くらいは……いいよね。」

亜梨沙のその言葉を合図にする様に、恵茉が先頭を歩き出す。

ランサーが亜梨沙の背中を軽く押し、三人は並んで夜道へと踏み出した。

「オレ、煮込みが食いてぇな! でも、こんな時間でやってる店がなかったら、カレーライスでも嬉しいぜ!」

「またそれ? それ結局どっちもカレーでしょ?」

「いーや! 何度言われてもあれは別もんだ! 煮込みは煮込み、カレーライスはカレーライスだよ!」

「あははっ。 じゃあ牛丼屋行こっか。 カレーもあるし。」

「おっ、いいじゃねぇか! サンキュー、恵茉!」

さっきまで命を賭けていたとは思えない程、虫の音が響く静かで穏やかな夜の時間。

それでも、三人は知っている。

あの闘いが、確かに“本物”だったことを。

そして、その中心にいた一人の男が満足して消えていったことを。

その誇りを胸に、夜の向こうへと歩いていく──